初デートで血まみれになった、と聞くと不穏だが、犯人は人間ではない。鹿である。しかも投稿者は、その三十分前に「鹿に近づかないでください」の警告看板を指さして「あれは何かあったとき責任を問われないように、形だけ立ててるやつだよ」と笑い飛ばしていた。伏線の回収速度が尋常ではない、ある夏の初デートの記録。
※注:鹿は見た目こそ穏やかだが、オスの角は骨でできていて、力ずくで振り回されればそれなりの凶器になる。奈良の鹿でも、観光客が噛まれたり突かれたりする話は珍しくない。
何をやらかした?
📌 マッチングアプリで一か月やり取りした相手との初デートで、鹿とクジャクが放し飼いになっている自然保護区の小島へ。「鹿に近づくな」の警告看板を笑い飛ばした三十分後、背後から来た鹿におやつを狙われ、角で顔面を殴られた。左目まで数センチ、数針縫って一生残る傷跡。そして相手とは、二年続く交際に発展した。
事の発端
六週間の休みと、二年ぶりのマッチングアプリ
心をすり減らすだけの職場を辞めた投稿者は、次を探す前に六週間まるごと休むと決めた。夏のあいだ滞在したのは、住んでいる街から船で一時間の小さな島にある、家族のトレーラーハウス(引いて運べる簡易住居)。海と時間だけがある生活である。
そのころ、ようやく「二年間止めていた恋愛を再開してもいいかな」という気持ちになった。友人に勧められたマッチングアプリを試し、がっかりする相手が数人、付き合っているのかどうかも曖昧なまま終わった相手が一人。そのあとで出会ったのが、当時三十一歳のジェイだった。話が合い、島にいる期間が長かったこともあって、実際に会うまで一か月以上やり取りが続いた。会う日は、彼のほうから「フェリーで一時間かけて島まで行くよ」と言ってくれた。
「あそこ、鹿とクジャクが歩いてるんだよ」
土地勘のある投稿者は、初デートの行き先に近くの小さな島を提案した。小舟でしか渡れない自然保護区で、水は透き通っていて、鹿とクジャクが自由に歩き回っている。投稿者はそれまで二十回以上そこへ行っていて、動物と近い距離にいても何事もなかった。自分の庭のようなものだった、と本人は書いている。
やらかしの一部始終
笑い飛ばした看板
小舟に乗り込むとき、二人は「鹿に近づかないでください」と書かれた警告看板が何枚も立っているのに気づいた。ここで投稿者は、自分でも認めるとおり、完全に調子に乗っていた。「あれは何かあったとき責任を問われないように、形だけ立ててるやつ。私の経験では、鹿のほうから距離を取ってくるから」——ジェイにそう説明した。
この先の展開は、たぶんもうお察しのとおりである。
ベンチの背後から来たもの
島に着くとジェイは水着に着替えに行き、投稿者はビーチバーの近くのベンチに座って軽食をつまんでいた。何の前触れもなく、背後から鹿が回り込んできて、その食べ物を奪おうとした。投稿者が反射的に手を引っ込めると、鹿は苛立ち、角を思い切り顔面に振り抜いた。左目を外れたのは、わずか数センチの差だった。
初デートが始まって、まだ三十分。投稿者は大量に出血しながら、「私はいま鹿に殴られたらしい」という事実を頭のなかで処理しようとしていた。あとで分かったことだが、その夏のあいだ観光客が餌をやり続けたせいで、鹿たちは人から食べ物を盗るのをためらわなくなっていた。すでに子供を含む何人かが怪我をしていたという。看板は、飾りではなかったのだ。
その後
着替えから戻ったジェイが見たのは、血だらけの初対面の相手だった。それでも二人とも、自分でも意外なほど落ち着いていた。ビーチバーの店員が傷口を消毒してくれているあいだ、投稿者は「綺麗な私を見せられたの、最初の数分だけだったね。もう顔に穴が空いちゃった」と冗談を言い、そのうえで「よかったらデートは続けたい」と伝えた。
ジェイは了承した。二人は一杯飲み、あろうことか泳ぎまでした。そんな状況でも投稿者は、彼の濡れた巻き毛がすごくいい匂いだったことをはっきり覚えているという。ただ、顔の出血がいっこうに止まらないので、結局その場を切り上げることになった。
島に戻り、投稿者の運転で医療センターへ。破傷風の予防注射を打ち、傷を数針縫うあいだ、ジェイはずっとそばにいた。落ち着いていて、こちらを安心させる態度を最後まで崩さず、二人はその状況を冗談にすることさえできた。処置のあとは一緒に昼食をとり、彼はフェリーで帰っていった。
そのデートは、文字どおり一生分の傷跡を残した。二年経ったいま、投稿者の左目の下には小さいがはっきり分かる傷がある。そして、人生でいちばん好きになった相手との二年間がある。実際に距離が縮まったのはさらに二回デートを重ねたあとで、ジェイは奥手で、「キスしてもいい?」と聞くまで何もしてこなかった(そこがまた良かったらしい)。数か月後に正式に交際が始まった。彼の友人たちのあいだで、投稿者は長いこと「鹿の女」と呼ばれていたそうだ。去年は二人で同じ島へ「鹿記念日」を過ごしに行った。鹿たちは、ちゃんといつもの距離感に戻っていたという。
海外の反応
1. やらかし名無しさん
「あの看板は責任逃れで立ててるだけ」と笑い飛ばした三十分後に角で顔面を殴られる。伏線の回収が早すぎて、脚本だったら「わざとらしい」と直されるレベルだと思う。
2. やらかし名無しさん(>>1への返信)
鹿ながら見事な回収でした。……すまない、元のコメント欄も「あらまあ」と「鹿」を掛けたダジャレで半分埋まっていたので、つい乗ってしまった。
3. やらかし名無しさん
鹿を可愛い動物だと思っている人は多いけど、小柄な種類でも体重は数十キロある野生動物だからな。角は骨だし、前脚の蹴りも普通に入る。見た目で油断させてくるのが一番タチが悪い。
4. やらかし名無しさん(>>3への返信)
見た目の詐欺力でいえば動物界でも上位だと思う。あの目でこちらを見つめながら、おやつを渡さなければ実力行使してくるわけで。
5. やらかし名無しさん
奈良でせんべいを持った瞬間に四方から囲まれて、服の裾を噛まれながら後ずさりした記憶がよみがえった。あれは可愛いというより、餌がもらえると学習した動物の圧なんだよな。
6. やらかし名無しさん
観光客が夏じゅう餌をやっていた、というところが本当の原因でしょ。投稿者は二十回以上通って何ともなかったと書いているんだから、その間に変わったのは鹿の側だ。看板を笑ったのは軽率だけど、人慣れさせた人たちのほうが罪は重いと思う。
7. やらかし名無しさん(>>6への返信)
いや、看板が立っている時点で「前とは状況が違う」という情報は出ていたわけで、そこを笑い飛ばしたのは自業自得の面もあると思う。よく知っている場所ほど、更新された注意書きを読まなくなるのが怖い。
8. やらかし名無しさん
「子供を含む何人かがすでに怪我をしていた」の一行が一番こわい。投稿者は運よく笑い話に着地したけど、数センチずれていたら目をやられていたわけで、本来は笑っている場合ではない。
9. やらかし名無しさん
初デートの三十分で顔から出血しながら「よかったら続けたい」と言える胆力がすごい。自分だったら穴があったら入りたいどころか、そのまま海に沈んでいる。
10. やらかし名無しさん(>>9への返信)
しかも「綺麗な私を見せられたのは最初の数分だけ」と自分でボケているのが強い。あの状況で場を回せる人は、そりゃ人生うまくいくよ。
11. やらかし名無しさん
相手の男性も相当いい。血まみれの初対面を前にして取り乱さず、医療センターまで付き添って、最後には冗談まで言い合えている。ここで固まって役に立たなくなる人は結構いると思う。
12. やらかし名無しさん
顔から流血しながら「濡れた巻き毛がいい匂いだった」をしっかり記憶しているのが面白い。非常時でも人間の脳は、優先順位を間違えないらしい。
13. やらかし名無しさん(>>12への返信)
出血より匂いが勝つ瞬間、あるんだな。人体の不思議というより、恋の不思議として処理しておくことにする。
14. やらかし名無しさん
その日のうちに破傷風の予防注射を打っているのが地味に偉い。動物にやられた傷は見た目の割に感染がこわいので、笑い話にできているのは処置が早かったおかげでもある。
15. やらかし名無しさん
彼の友人たちのあいだで長らく「鹿の女」と呼ばれていたのが好き。あだ名の由来が強すぎて、もう一生その呼び名で通されるやつだ。
16. やらかし名無しさん(>>15への返信)
結婚式のスピーチで確実に使われる。新郎側の友人が全員その話を知っている状態で始まる披露宴、想像するとちょっと楽しい。
17. やらかし名無しさん
トラウマの現場になってもおかしくない島に、「鹿記念日」と名前をつけて戻っていく感覚がいい。二人の相性は、もうその一点で答えが出ていると思う。
18. やらかし名無しさん
一つだけ言わせてほしい。鹿は恋のキューピッドではない。ただおやつを盗みたかっただけだ。それでも結果として、その夏いちばんいい仕事をしている。
19. やらかし名無しさん(>>18への返信)
キューピッドの矢が角だった場合の話をしている。しかも矢と違って抜けないので、傷跡というかたちで一生残る。仕事が丁寧すぎる。
20. やらかし名無しさん
やらかし話を読みに来たはずが、他人の恋の始まりを最後まで見届けて終わった。顔の傷と二年続いた交際をセットで持ち帰っているので、収支としては大幅な黒字だと思う。
まとめ
警告看板を笑い飛ばした三十分後に鹿の角が飛んでくる。教訓としては身も蓋もないが、看板というのはたいてい「すでに誰かが痛い目を見た記録」として立っている、という一点に尽きる。コメント欄は「看板を無視した自業自得」派と「餌をやり続けた観光客が悪い」派で割れつつ、最後は血まみれのまま続行された初デートへの拍手でまとまった。左目の下の傷跡は消えないが、その傷を見つけられるたびに二人は初デートの話をするのだという。持ち帰り方としては、悪くない。
元ソース: 初デートで鹿に顔面を殴られてしまった


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