「黒いやつ、ちょっと外れてたのよ」——89歳の患者さんにそう言われた瞬間、オランダの看護学生は背筋を伸ばした。おばあちゃんの指は、隣のベッドのほうを向いている。そこに寝ているのは、英語しか話さない黒人の男性だ。人を見た目で呼ぶような言い方を、聞き流すわけにはいかない。そう思って口を開いたのが、この日いちばんの早とちりだった。
※注:舞台はオランダの病院で、患者さんとのやりとりはオランダ語だったとみられる(投稿者は「隣の男性は英語しか話さないので、何を笑われているのか分からなかったのが救い」と書いている)。「黒いやつ」にあたる言い方が人にも物にも同じように使えてしまうのは、日本語と事情が変わらない。文中の点滴ポンプは、薬や水分を一定の速さで血管に送り込むための機械のこと。
何をやらかした?
📌 オランダの看護学生が夕方の勤務中、89歳の女性患者の点滴ポンプを確認していたところ、患者から「黒いやつがちょっと外れてたのよ」と言われた。指の先には隣のベッドで寝ている黒人男性。とっさに「そういう言い方はしません」とたしなめたが、患者が言っていたのは点滴ポンプにつながる黒い電源コードのことだった。おばあちゃんは大爆笑、向かいのベッドの女性まで笑い出し、真っ赤になった投稿者は謝り倒しながら部屋を出た。
事の発端
夕方の見回りと、感じのいいおばあちゃん
投稿者はオランダで看護師を目指して勉強中の学生である。この日は夕方からの勤務で、担当していたのが89歳の女性患者だった。本人いわく「とても感じのいい方」。病室は数人が一緒に入る部屋で、彼女の隣のベッドには英語しか話さない黒人の男性が、向かいのベッドにはもう一人の女性が入院していた。ここまでは、どこの病院にもある夕方の景色である。
点滴ポンプの確認と、なんでもない世間話
投稿者はおばあちゃんの点滴ポンプの様子を見ながら、いつものように世間話をしていた。天気の話か、夕食の話か、そのあたりの当たり障りのないやりとりだったのだろう。おばあちゃんはふと、投稿者のすぐ横を指さして、こう言った。
「黒いやつ、ちょっと外れてたのよ」
やらかしの一部始終
「そういう言い方はしません」
投稿者の頭の中で、警報が鳴った。指の先には隣のベッド。そこに寝ているのは黒人の男性。つまりこの人は今、隣の患者さんのことを「黒いやつ」と呼んで、しかも「ちょっと部屋を出ていた」と言ったのか——。看護の現場に立つ者として、ここで黙るのは違う。そう判断した投稿者は、できるだけ穏やかに、しかしはっきりと伝えた。「あの、人のことをそういうふうには言いません。お隣の患者さんを『黒いやつ』とは呼ばないでください」
頭の上に、疑問符が二十個くらい並んだ
おばあちゃんは、頭の上に疑問符を山ほど浮かべた顔で投稿者を見つめ返した。投稿者もまた、その反応の意味が分からずに見つめ返す。数秒の沈黙のあと、おばあちゃんが言った。
「え? ポンプの黒いコードが、ちょっと抜けてたって話よ」
「黒いやつ」は、隣で寝ている男性ではなかった。点滴ポンプにつながっている、黒い電源コードのことだった。おばあちゃんが指さしていたのは隣のベッドではなく、投稿者のすぐ足元にあった機械だったのである。
その後
投稿者いわく「心臓のあたりに、いたたまれなさが一気に押し寄せてきた」。そして次の瞬間、おばあちゃんが猛烈な勢いで笑い出した。何が起きたのかを察した向かいのベッドの女性も、つられて笑い始める。投稿者は必死に謝った。「本当にすみません、指をさしてそうおっしゃったので、てっきりお隣の男性のことかと……」——この釈明が、おばあちゃんの笑いにさらに火をつけた。
89歳のおばあちゃんに腹を抱えて笑われたことはあるだろうか。あれは効く、と投稿者は書いている。顔から耳まで真っ赤になり、それでも謝りながら、最後は逃げるように病室を出た。廊下に出てもなお、背中のほうから二人分の忍び笑いが追いかけてきたという。
唯一の救いは、当の男性が英語しか話さず、この一部始終がまったく分かっていなかったことだった。投稿者は最後をこう締めている。「まあ、少なくとも誰かのために声を上げようとはしたわけで。必要はまったくなかったけど」
海外の反応
1. やらかし名無しさん
勘違いではあったけれど、あの場面で黙っていられない看護師さんがそこにいたという事実のほうが、私はうれしい。念のために書いておくと、笑ったのはあなたにではなく状況にです。ちゃんとやろうとしてくれてありがとう。本気でそう思っています。
2. やらかし名無しさん(>>1への返信)
投稿者です。こういうコメントに救われています。恥ずかしさで一晩ずっと布団の中で足をばたつかせていたので、そう言ってもらえると気が楽になりました。ありがとうございます。
3. やらかし名無しさん
こういうことってあるんですよね。私の親戚に、宗教というものが好きではなくて、それを隠さない人がいました。子どもの頃に遊びに行くと「外であんまり騒がないで、隣のクリスチャンが苦情を言ってくるから」なんて言うんです。英語だと「クリスチャン」は信者を指す普通の言葉なので、子ども心にも、人を信仰で呼ぶのはどうなんだろうと思っていました。それから二十年ほどして、私は地元で警察の緊急通報を受ける仕事に就きました。ある日、その親戚の家の隣から通報が入って、画面に発信元の電話番号と名前と住所が自動で表示されるんですが——その家の名字が「クリスチャン」だったんです。二十年間、私はただの名字を信仰の話だと思い込んでいたわけです。自分の間抜けさに天を仰ぎました。
4. やらかし名無しさん(>>3への返信)
やられました。声を出して笑ってしまった。二十年越しの答え合わせという長さがまた効いてます。あなたの親戚は、たぶん一度も変なことを言っていない。
5. やらかし名無しさん
これは誰でもそう取ります。前後の事情を何も知らない状態で、しかも指をさしながら言われたら、そちらの意味に聞こえるのが自然です。むしろ、あの一瞬でちゃんと言葉にできる人のほうが少ない。落ち込む要素がどこにもない話だと思いますよ。
6. やらかし名無しさん
かわいそうに。ただ一つだけ気になるのが、隣の男性が「自分のことで笑われている」と感じていないかどうか。言葉が分からないぶん、ああいう会話だと人はどうしても本人のほうを何度か見てしまうので、そこだけ心配です。
7. やらかし名無しさん(>>6への返信)
投稿者です。私が知る限り、彼はそのとき反対側を向いて眠っていました。なので、もし物音で目が覚めていたとしても、私と他の患者さんたちが何かしゃべって笑っているな、くらいにしか思わなかったはずです。そうであってくれと本気で願っています。
8. やらかし名無しさん(>>7への返信)
それならよかった。たぶん彼が思っていたのは「うるさいから早く笑いやんでくれ」だけです。夜勤明けの病室でげらげらやられたら、私だってそう思う。
9. やらかし名無しさん
どこまで本当か怪しい昔話なんですが、救急の受け入れで患者さんを緊急度ごとに色分けしていた病院があって、いちばん急がなくていい人が「黒」だったそうです。ある晩、大きな事故か何かで現場が回らなくなったとき、責任者の看護師が受付に向かって大声で「黒の患者は全員帰してくれ」と叫んだ。場所がロンドンの南部だったので、待合室が一瞬で騒然となったとか。
10. やらかし名無しさん(>>9への返信)
それ、十分ありえます。私は八年ほど前に、患者さんの担当を色で分けている病棟で働いていました。赤、青、緑、そして黒。だから「そろそろ黒の患者さんを回る時間だ」「黒の先生たちはお昼に行ってください」みたいな会話が、まったく普通に飛び交っていたんです。運用が変わったのは、黒チームに黒人の医師が配属されて、全員が同時にその響きのおかしさに気づいた日でした。
11. やらかし名無しさん(>>10への返信)
なるほど、だから他のところは同じ枠に「緑」を使っているんですね。ずっと配色のセンスの問題だと思っていたのですが、そういう事情があったとは。
12. やらかし名無しさん
私もつい最近やりました。診療所で働いているんですが、たまに「ブラック先生」というお医者さんから紹介状が来るんです。この先生の紹介は期限や条件が細かくて、こちらの段取りを組み直さないといけない。その紹介状を見つけた瞬間、待合室に響く声で同僚に叫んでしまいました。「うわ、またブラックの紹介が来た!」英語だと、これが「また黒人の紹介か」とも聞こえてしまうんですよ。慌てて患者さんたちに事情を説明して回りました。
13. やらかし名無しさん(>>12への返信)
病院の館内放送で「黒い財布の落とし物をお預かりしています」と流したときの空気を想像してしまった。悪意ゼロで場が凍る現象、あれには名前を付けたほうがいい。
14. やらかし名無しさん
89歳に腹を抱えて笑われる、という体験の破壊力がすごい。同年代に笑われるのとはわけが違って、こちらには反撃の手段が一つも残らないんですよ。あの世代の笑いは、なぜあんなに深く刺さるんでしょうね。
15. やらかし名無しさん
あの部屋にいた全員が、たぶんあなたを抱きしめて「気にしないで」と言いたかったと思います。本人たちができなかったぶん、せめてここにいる我々にやらせてください。読んでいるこちらまで顔が熱くなりました。
16. やらかし名無しさん
一つだけ真面目な話をすると、確信が持てないうちは決めつけないほうがいい、という教訓ではありますよね。今回はたまたま相手が笑って済ませてくれる方だったからよかったものの、そうでない人だったら気まずさだけが残っていたはずです。
17. やらかし名無しさん(>>16への返信)
投稿者です。正直に言うと、ご年配の患者さんから「今どきそれは言わないでしょう」という言い回しを、さらっと聞かされることは実際にあります。だからつい身構えてしまいました。でも、みんながそうというわけでは全然ないので、おっしゃるとおり、私の結論が早すぎたのは確かです。
18. やらかし名無しさん
入院中のおばあちゃん二人を、あそこまで一緒に笑わせられたなら、それはもう大手柄では。病室であんなに笑える日はそう多くないですよ。あの日の消灯前、二人はきっともう一度思い出してくすくすやっていたと思います。
19. やらかし名無しさん
私がその男性の立場だったら、あとから事情を聞いて、代わりに口を開いてくれてありがとうと言いたくなると思います。結果的に必要なかったとしても、そういう人が病室にいてくれるだけで安心できるので。しかも本人が全部聞き取れていたら、たぶん一緒に笑っていた。
20. やらかし名無しさん
病院って「黒いやつ」が多すぎるんですよ。点滴ポンプの電源コード、血圧計の腕帯、ごみ袋、車いすのタイヤ。この話を読んでから、自分の職場を見回して数えてしまいました。次にこの手のことを言われたら、まず足元を見る。それだけで人生の危機を一つ回避できます。
まとめ
誰かのために声を上げようとした看護学生が、指の先を読み違えて89歳に大笑いされた、というだけの話である。コメント欄には「二十年間、隣の家の名字を信仰だと思い込んでいた」「病棟の黒チームに黒人の医師が来て初めて気づいた」と、同じ穴に落ちた人たちの告白が次々と集まった。かばう相手を間違えたところで、かばおうとした事実は消えない。おばあちゃんが腹を抱えて笑ってくれたのは、たぶんそこまで含めての反応だったのだと思う。
元スレッド: 看護学生として、うっかり失礼なことをしてしまった話


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