出張の準備を必死で進めていて、真っ先に確かめておくべきことが、いちばん最後まで残っていた。そういう抜けは誰にでもある。ただしそれが「300個の強力な磁石」だと、抜けの大きさが少しだけ変わってくる。海外の高校生に見せる体験授業を任された大学教員が、教材を作り、スライドまで仕上げたところで、その教材を飛行機に載せられないと知った。出発まで、あと2日だった。
※注:ネオジム磁石は、鉄とネオジムなどからできている、今いちばん強い部類の永久磁石。小指の先ほどの大きさでも、指を挟むと本気で痛い。磁気浮上は、磁石どうしが反発する力だけで物を浮かせること。リニアモーターカーが線路から浮いて走るのと同じ原理である。
何をやらかした?
📌 大学の教員である投稿者は、海外出張の一環で高校生向けの体験授業を担当することになった。趣味の磁石を活かし、3Dプリンタで「触れていないのに押し返してくるバネ」の装置を製作。教材用に一辺およそ9.5ミリの立方体のネオジム磁石を300個そろえ、スライドも完成させた。そこでようやく、その磁石を飛行機で運べないと気づく。航空会社の回答は、機内持ち込みも預け入れも不可。授業を作り直せる時間は、残り2日だった。
事の発端
声がかかったのは、出発の直前だった
投稿者は大学の教員である。今回の出張は、海外に出向いて自分の大学を紹介し、進学先の候補に入れてもらうための広報活動だった。しかも投稿者はもともとのメンバーではなく、直前になって「君も行ってほしい」と追加で呼ばれた側である。頼まれた仕事は「工学に興味のある高校生に向けて、手を動かして体験できる実演を用意すること」。準備に使える日数は、ほとんど残っていなかった。
趣味がそのまま教材になった
ここで効いてきたのが、投稿者の趣味である。この人は磁石が好きで、研究室の引き出しには一辺およそ9.5ミリの立方体のネオジム磁石が山のように眠っていた。何年も前に海外のネットオークションでまとめ買いしたもので、当時は驚くほど安かったという(この手の磁石は近年かなり値上がりしている)。
そこで投稿者は、3Dプリンタで小さな装置を作りはじめた。筒の中に磁石を反発する向きで並べておくと、押しても押しても中身が戻ってくる。金属のバネはどこにも入っていないのに、指にはたしかにバネの手ごたえがある。これを生徒に順番に手渡して、実際に押してもらう。「触れていないのに力が伝わる」感覚を味わってもらったうえで、リニアモーターカーのような磁気浮上の話に広げていく——授業の筋書きとしては、なかなか気が利いている。
やらかしの一部始終
スライドを作り終えて、ようやく調べた
装置ができ、磁石も300個そろい、スライドも仕上がった。準備は万端に見えた。そのとき投稿者は、ふと思った。「そういえばこれ、飛行機に載せられるんだろうか」。
調べて、航空会社に問い合わせて、返ってきた答えははっきりしていた。機内に持ち込むのはもちろんだめ。預け入れの荷物に入れるのもだめ。投稿者の書き方を借りれば、取りつく島もない「不可」だった。
「磁石は禁止」の一言では片づかない話
ここは誤解されやすいので、少していねいに書いておきたい。磁石そのものが世界共通で一律に禁止されている、という話ではない。国際航空運送協会が定める航空輸送のルールでは、荷物から外へ漏れ出す磁力の強さで線を引いている。よく使われる目安が「荷物の表面から2.1メートル離した方位磁針の針が、本来の向きから2度以上ずれないこと」というものである。針が動くほど磁力が漏れていれば、機体の計器やセンサーに影響しうるからである。裏を返せば、量と並べ方と梱包しだいで、通ることもあれば通らないこともある。
ただし、実際に運べるかどうかを判断するのは航空会社と貨物の担当者だ。投稿者は自分が乗る航空会社に確認して、そこで断られている。つまりこれは「投稿者の航空会社では不可だった」という話であって、どこでも必ず同じ結論になるという意味ではない。磁石や磁石入りの機材を運ぶ予定がある人は、一般論で決めつけず、自分が使う航空会社に事前に問い合わせておくのが確実である。
投稿者自身、理屈のほうは分かっていた。本文にはこう書き添えられている。「磁力が外に漏れないよう向きをそろえて並べて、鉄の箱に入れて遮蔽すればいいのは分かってる。……でもそれをやると、どう見ても怪しいものを運んでいる人になる」。X線に映るのは、中身の見えない金属の箱。開ければ磁石が300個。空港でその説明から始めるのは、たしかに気が進まない。
残ったのは、使えない教材と2日間
現地で買い直すという手もある。ただし手元の在庫は何年も前の安かった時期に確保したもので、いまの相場で300個そろえ直すとなると費用が跳ね上がる。そのうえ出発は2日後。注文しても、自分より先に現地へ届く保証はない。
その後
結局、投稿者は新しい実演を一から考え直すことになった。本人いわく「たぶん、当初やりたかったものよりずっと『見せて説明するだけ』の授業になると思う」。生徒が自分の手で不思議な力を感じるはずだった時間が、教員が前に立って解説する時間に置き換わる。工学の面白さを伝えに行く出張としては、なかなか惜しい。
ただ、投稿者の書きぶりに悲壮感はない。「もっと早く気づくべきだった。でも、準備がずっとバタバタだったので」と、あっさり認めている。締め切り直前に押し込まれた仕事で、いちばん楽しい部分から手を付けてしまい、事務的な確認が後回しになる。心当たりのある人は、たぶん少なくない。
ちなみに300個の磁石は、いまも投稿者の研究室にある。飛行機にさえ載せなければ、いつでも使える教材のままだ。
海外の反応
1. やらかし名無しさん
資料や教材を先に現地へ送っておくのは、この手の出張授業だとかなり普通のやり方だと思う。学校宛でもホテル宛でもいい。全部を自分の荷物で運ぶ必要はないよ。
2. やらかし名無しさん(>>1への返信)
本文をよく読むと、その磁石は何年も前の安かった頃に買いだめしたものだと書いてある。いまの値段で300個そろえ直すとなると、金額的にけっこう厳しいんじゃないかな。
3. やらかし名無しさん(>>1への返信)
この案の何が好きって、結局その磁石は飛行機で運ばれるってところなんだよな。下手すると、本人と同じ便の貨物室で。
4. やらかし名無しさん
ホテル宛に配送を指定して注文してしまうのが一番早い気がする。チェックインのときに「お荷物が届いております」と渡されるやつ。宿泊予約さえ済んでいれば、たいていの国でやれる。
5. やらかし名無しさん(>>4への返信)
(投稿者です)その手があるのは分かってるんだけど、なにせ2日後には出発なんだ。いまから注文して、自分より先に現地へ届く可能性に賭けるのは、さすがに怖い。
6. やらかし名無しさん(>>5への返信)
国際宅配便なら翌日配送も一応できる。行き先の国と通関しだいだけど、届かないよりマシと割り切れる金額かどうか、という話ではあると思う。
7. やらかし名無しさん
いっそ肥料を使った化学反応の授業に切り替えたらどうかな。航空会社的には、そっちのほうがきっと歓迎してもらえると思う。磁石よりよほど安心だろうし。
8. やらかし名無しさん(>>7への返信)
その調子で「空港で言ってはいけない台詞」を集めようか。じゃあ次は「本日は腹話術についてお話しします」で。——いま喋ったのはどなたですか。そのスーツケースの中からではありませんでしたか。
9. やらかし名無しさん
そもそもなぜ磁石がだめなのか、ちゃんと考えたことがなかった。方位磁針とか、機体が使っている磁気のセンサーが狂うから、ということなんだろうか。
10. やらかし名無しさん(>>9への返信)
そういうこと。基準は数字で決まっていて、荷物の表面から2.1メートル離した方位磁針の針が2度以上ずれないこと、というのが目安になってる。つまり「磁石だから」ではなく「外へ漏れる磁力が強すぎるから」なんだよね。
11. やらかし名無しさん(>>9への返信)
あと、鉄で遮蔽すればいいことにしてしまうと、金属の箱の中に磁石より厄介なものを隠す口実にもなる。ひとつずつ中身を見て線を引く手間を考えると、まとめて断るほうが早いんだと思う。
12. やらかし名無しさん
仕事で似たことをやったことがある。海外メーカーの重低音用スピーカー(直径およそ46センチ)を16台、船便だと1か月以上かかると言われて、磁石を理由に「空輸は無理」と最初は断られた。それでも粘って書類を積み上げたら、3日と運賃およそ120万円で飛んできた。スピーカー本体はだいたい無事だったけど、アンプを入れていた輸送ケースのほうが壊れて届いた。
13. やらかし名無しさん
いったん消磁して(磁力を抜いて)ただの鉄の塊として送り、現地でもう一度磁力を入れ直せばいい。以上、完璧な作戦でした。
14. やらかし名無しさん(>>13への返信)
300個を1個ずつ磁石に戻す作業、授業の時間より長くかかると思う。そもそも磁力を入れ直す装置が現地の高校にあるのかどうか。
15. やらかし名無しさん
旅先で冷蔵庫に貼るマグネットを集める趣味があって、ヨーロッパを2か月回ったあと全部まとめて手荷物に入れたことがある。検査で係員の顔が急に真剣になって、X線には「正体不明の黒い塊」として映っていたらしい。開けたら磁石の山で、最後は笑い話になった。
16. やらかし名無しさん(>>15への返信)
それはお土産の飾りマグネットの話で、投稿者が持っていこうとしているのは別物だと思う。同じ「磁石」でも、力の桁がまるで違う。
17. やらかし名無しさん
「これは介助犬みたいなもので、私の情緒を安定させるために必要な磁石なんです」と言い張ってみるのはどうか。最近は動物以外にもいろんなものが心の支えとして認められているらしいし、案外いけるかもしれない。
18. やらかし名無しさん
その失敗をそのまま授業のネタにしてしまえばいいと思う。「工学の仕事は、作ることよりも、制約を先に洗い出すことのほうが大事です」って。実話が付いてくるぶん、生徒にはむしろ刺さる。
19. やらかし名無しさん
代わりの実演なら、乾電池とエナメル線と磁石1個で簡単なモーターは作れる(1個だけなら荷物の扱いも変わってくるはずだから、これも一応確認は必要だけど)。それも面倒なら、紙とテープだけで高い塔を建てて重さに耐えさせる競争でも十分に盛り上がる。
20. やらかし名無しさん
磁石が趣味で、机の引き出しに300個入っている大学の先生。この時点でもう、その人の授業を受けたかったと思ってしまった。作り直したほうも、たぶん面白くなると思う。
まとめ
楽しい部分から先に作り込んで、地味な確認を後回しにした結果、完成した教材を現地へ持って行けなくなった。海外の反応は「先に送ればいい」「ホテル宛に注文すればいい」という現実的な提案から、「磁力を抜いて鉄として送れ」「肥料の化学反応の授業に変えろ」という遊びまで幅広く、投稿者を責める声はほとんどなかった。磁石を300個も机に貯め込んでいる先生が、それを高校生に触らせようとしていた——その動機のほうが好かれていたのだと思う。作り直した授業も、たぶん悪くない出来になっているはずだ。
元ソース: 磁石を飛行機で運ぶつもりでいた、というやらかし

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